スポーツについてシステム的観点からのルールの公平性と娯楽性

ロンドンオリンピックが行われている影響もあって,スポーツについてシステム的観点からルールの公平性と娯楽性を考えてみることにしました.

スポーツについてのモデル構築

スポーツについてシステム的に考察するためにスポーツのシステムをモデル化します.

概念と用語の定義

考察の基礎となる諸概念・定義を定めます.

スポーツの定義としは,Wikipediaから以下のようにします.

   スポーツ:人間が考案した施設や技術,ルールに則って営まれる,遊戯・競争・肉体鍛錬の要素を含む身体を使った行為

つぎにスポーツのシステムを構成する三種類の区分を以下のようにします.

  • 行為者   : スポーツを実際に行う集団(チーム)
  • 運営組織  : スポーツを運営する集団(組織)
  • 娯楽受益者 : スポーツを観戦する集団

この三種類の区分の構成関係は以下のVen 図のようになるとします.

三種類の区分の構成関係でのポイントは行為者と娯楽受益者両者に共通する集団はいないとすることです.

この三種類の区分によって生じるシステムの現実的かつ本質的な組み合わせは次の四種類となります.

  1. 行為者と運営組織と娯楽受益者のシステム
  2. 行為者と運営組織・娯楽受益者のシステム
  3. 行為者・運営組織と娯楽受益者のシステム
  4. 行為者・運営組織・娯楽受益者のシステム

以降では各システムにおけるルールの公平性と娯楽性について考察していきます.

1.行為者と運営組織と娯楽受益者のシステム

行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムでは,スポーツを構成する区分の関係は以下のVen 図の灰色部分のようになります.

行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムは以下のように表せます.

このモデルの特徴は行為者と運営組織と娯楽受益者が独立していることであり,そのことから以下のような運営が行われます.

  • 行為者と運営組織の間では,行為を行う上でのルール規制と遵守をもとにした運営
  • 運営組織と娯楽受益者の間では,観戦を行う上での環境提供とそのための報酬をもとにした運営

このモデルにおけるルールの公平性と娯楽性は以下のような依存関係になります.

 1-1.ルールの公平性1:行為者と運営組織間の直接関係
 1-2.ルールの公平性2:運営組織と娯楽受益者の間接関係
 1-3.娯楽性1:行為者の行為と娯楽受益者の観戦の間接関係
 1-4.娯楽性2:運営組織の観戦環境と娯楽受益者の観戦の直接関係

2.行為者と運営組織・娯楽受益者のシステム

行為者と運営組織・娯楽受益者のシステムでは,スポーツを構成する区分の関係は以下のVen 図の灰色部分のようになります.

行為者と運営組織・娯楽受益者のシステムは以下のように表せます.

このモデルの特徴は行為者と運営組織・娯楽受益者が独立していることであり,そのことから以下のような運営が行われます.

  • 行為者と運営組織・娯楽受益者の間では,行為を行う上でのルール規制と遵守をもとにした運営
  • 運営組織と娯楽受益者は同じ集団のため,観戦を行う上での環境提供とそのための報酬は自己完結的な運営

このモデルにおけるルールの公平性と娯楽性は以下のような依存関係になります.

 2-1.ルールの公平性:行為者と運営組織・娯楽受益者の直接関係
 2-2.娯楽性:行為者の行為と運営組織・娯楽受益者の観戦の直接関係

3.行為者・運営組織と娯楽受益者のシステム

行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムでは,スポーツを構成する区分の関係は以下のVen 図の灰色部分のようになります.

行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムは以下のように表せます.

このモデルの特徴は行為者・運営組織と娯楽受益者が独立していることであり,そのことから以下のような運営が行われます.

  • 行為者と運営組織は同じ集団のため,行為を行う上でのルール規制と遵守は自己完結的な運営
  • 行為者・運営組織と娯楽受益者の間では,観戦を行う上での環境提供とそのための報酬をもとにした運営

このモデルにおけるルールの公平性と娯楽性は以下のような依存関係になります.

 3-1.ルールの公平性1:行為者と運営組織の直接関係
 3-2.ルールの公平性2:行為者・運営組織と娯楽受益者の間接関係
 3-3.娯楽性:行為者・運営組織の行為と娯楽受益者の観戦の直接関係

4.行為者・運営組織・娯楽受益者のシステム

行為者・運営組織・娯楽受益者のシステムでは,スポーツを構成する区分の関係は以下のVen 図の灰色部分のようになります.

行為者・運営組織・娯楽受益者のシステムは以下のように表せます.

このモデルの特徴は行為者と運営組織,運営組織・娯楽受益者がそれぞれ同じ集団であることであり,そのことから以下のような運営が行われます.

  • 行為者と運営組織は同じ集団のため,行為を行う上でのルール規制と遵守は自己完結的な運営
  • 運営組織と娯楽受益者は同じ集団のため,観戦を行う上での環境提供とそのための報酬は自己完結的な運営

このモデルにおけるルールの公平性と娯楽性は以下のような依存関係になります.

 4-1.ルールの公平性:行為者と運営組織と娯楽受益者の直接関係
 4-2.娯楽性:行為者と運営組織と娯楽受益者の行為と観戦の直接関係

スポーツについて四つのモデルに対する現実への適応と考察

四つのモデルはあくまでモデルであるので現実から抜け落ちている部分があります.

現実から抜け落ちている部分というのは行為者に対する運営組織以外の利害関係者の存在とそこからの関係です.

具体的には国家や運営スポンサー以外の企業とそこから派生する報酬という関係になります.

今回は考察対象であるルールの公平性と娯楽性に関して大きな影響がないと考えられるためこの部分を考えなくてもよいだろうということになっています.

以下では各モデルに対する現実への適応と考察を行います.

1.行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムに対する現実への適応と考察

このモデルの現実への適応に関する代表例はアマチュアスポーツ大会になります.

ここで代表例としてオリンピックを挙げれば,行為者は競技の参加者(チーム)であり,運営組織はオリンピック委員と開催国であり,娯楽受益者はすべての観戦者となります.

行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムにおけるルールの公平性からオリンピックに対して,行為者と運営組織間の直接関係と運営組織と娯楽受益者の間接関係から問題性を考えることができます.

 1-1.行為者と運営組織間の直接関係では,行為者がルールを遵守しているか(ここでは暗黙のルール含まない),運営組織は行為者に適切なルールを課しているかという点が論点になります.

 1-2.運営組織と娯楽受益者の間接関係では,運営組織が行為者に課すルールが行為を観戦するためのものとなっているかという点が論点になります.

行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムにおける娯楽性からオリンピックに対して,行為者の行為と娯楽受益者の観戦の間接関係と運営組織の観戦環境と娯楽受益者の観戦の直接関係から問題性を考えることができます.

 1-3.行為者の行為と娯楽受益者の観戦の間接関係では,ルールを遵守して娯楽性を高める行為を行っているかという点が論点になります.

 1-4.運営組織の観戦環境と娯楽受益者の観戦の直接関係では,運営組織の提供する観戦環境は娯楽受益者の報酬(間接的な利益,視聴率なども含む)見合っているかが論点になります.

議論の具体例として女子サッカーにおけるグループリーグ2位通過への議論などが挙げられます.

 1-1.日本女子サッカーチームはルール(試合だけでなく日程なども含む)は十分遵守していると考えられる一方,運営組織が各チームに課したルールは各試合においては適切でも大会日程などでは適切であったのか議論する余地があると考えられます.

 1-2.運営組織が各チームに課すルールは観戦者にとってカメラワーク以外は十分であったと考えられます.

 1-3.娯楽受益者が運営組織からサッカーチームへのルールを熟知していれば,十分ルールを遵守した行為であったと考えられます.

 1-4.運営組織の観戦環境(試合ごとの娯楽性の高低を含む)は娯楽性が高い試合(グループ突破や決勝)では報酬に見合う環境が提供できる可能性が高いが娯楽性が低い試合(消化試合)が生じる可能性を排除できていない(しかも予測負荷で報酬は払い済みの場合も生じる)という点で十分な観戦環境が提供できていないと考えられます.

以上のように女子サッカーにおけるグループリーグ2位通過への議論ではルールの公平性と娯楽性から運営組織における不備を中心に考えることができます.

2.行為者と運営組織・娯楽受益者のシステムに対する現実への適応と考察

このモデルの現実への適応に関する代表例は富豪などが行う閉鎖的な内輪のスポーツ大会などになります.

ここで行為者は競技の参加者(チーム)であり,運営組織・娯楽受益者は富豪とその関係者となります.

行為者と運営組織・娯楽受益者のシステムにおけるルールの公平性から富豪などが行う閉鎖的な内輪のスポーツ大会に対して,行為者と運営組織・娯楽受益者の直接関係から問題性を考えることができます.

 2-1.行為者と運営組織・娯楽受益者の直接関係では,行為者がルールを遵守しているか(ここでは暗黙のルール含まない),運営組織・娯楽受益者は行為者に適切なルールを課しているかという点が論点になります.

行為者と運営組織・娯楽受益者のシステムにおける娯楽性から富豪などが行う閉鎖的な内輪のスポーツ大会に対して,行為者の行為と運営組織・娯楽受益者の観戦の直接関係から問題性を考えることができます.

 2-2.行為者の行為と運営組織・娯楽受益者の観戦の直接関係では,ルールを遵守した行為を行っているかという点が論点になります.

3.行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムに対する現実への適応と考察

このモデルの現実への適応に関する代表例はプロフェッショナルスポーツ大会などになります.

ここで代表例としてJリーグを挙げれば,行為者・運営組織はプロ選手(チーム)と協会やメディアなどのバックアップ組織であり,娯楽受益者はすべての観戦者となります.

行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムにおけるルールの公平性からJリーグに対して,行行為者と運営組織の直接関係と行為者・運営組織と娯楽受益者の間接関係から問題性を考えることができます.

 3-1.行為者と運営組織の直接関係では,行為者と運営組織の間でルールへの妥当な結論となっているかという点が論点になります.

 3-2.行為者・運営組織と娯楽受益者の間接関係では,行為者・運営組織におけるルールが行為を観戦するためのものとなっているかという点が論点になります.

行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムにおける娯楽性からJリーグに対して,行為者・運営組織の行為と娯楽受益者の観戦の直接関係から問題性を考えることができます.

 3-3.行為者・運営組織の行為と娯楽受益者の観戦の直接関係では,行為者・運営組織の行為は娯楽受益者の報酬(間接的な利益,視聴率なども含む)見合っているかという点が論点になります.

議論の具体例として,ナビスコカップなどにおけるベストメンバー規定と各チームのスタメン変更時の試合などが挙げられます.

 3-1.各チームと運営組織の直接関係では,各チームと運営組織の間でベストメンバー規定への妥当な結論となっていないと考えられます.

 3-2.各チーム・運営組織と観戦者の間接関係では,各チーム・運営組織におけるベストメンバー規定がそのチームをよく知る観戦者には試合を観戦するためのものとなっているが,あまり知らない人間には逆に誤解(例えばベストメンバー=有名選手など)を招きかねないため試合を観戦するためのものとなっていないと考えられます.

 3-3.各チーム・運営組織の行為と観戦者の観戦の直接関係では,各チーム・運営組織が行う試合は観戦者の報酬(間接的な利益,視聴率なども含む)見合っているかは試合差,個人差はあれど試合観戦への選択権がある程度確保されていることから見合っていると考えられます.

以上のようにナビスコカップなどにおけるベストメンバー規定と各チームのスタメン変更時の試合では,各チームと運営組織の間でベストメンバー規定への妥当な結論を導くことが最優先と考えられます.

4.行為者・運営組織・娯楽受益者のシステムに対する現実への適応と考察

このモデルの現実への適応に関する代表例は部活動などの練習試合などになります.

ここで代表例としてサッカー部の練習試合を挙げれば,行為者・運営組織・娯楽受益者はサッカー部員とその関係者になります.

行為者・運営組織・娯楽受益者のシステムにおけるルールの公平性からサッカー部の練習試合に対して,行為者と運営組織と娯楽受益者の直接関係から問題性を考えることができます.

 4-1.行為者と運営組織と娯楽受益者では,三者が満足できる妥当なルールとなっているかという点が論点になります.

行為者・運営組織・娯楽受益者のシステムにおける娯楽性からサッカー部の練習試合に対して,行為者と運営組織と娯楽受益者の行為と観戦の直接関係から問題性を考えることができます.

 4-2.行為者と運営組織と娯楽受益者の行為と観戦の直接関係では,三者が行為の結果に満足できるかという点が論点になります.

おまけ(言い訳)

今回考えたスポーツのモデルはルールの公平性と娯楽性を中心に考えたため経済的な観点における需要供給関係に深く踏み込んでいません.

近代スポーツが運営組織と娯楽受益者なしに成り立たないことを考えれば,娯楽受益者に対する報酬の妥当性に重きをおいたルールの公平性という視点は見逃せません.

実際のところ,3.行為者・運営組織と娯楽受益者のシステムでは娯楽受益者によるルール変更への影響力が高く,如何に娯楽性を高めるかを中心にルールの公平性を決定しているスポーツも多くあります(アメリカンフットボールやバスケットボールなど).

また,1.行為者と運営組織と娯楽受益者のシステムにおいても国家間の争いによる運営組織への暗に明にの圧力がルールの公平性に影響を与えています.

以上の点まで含めて考察するにはモデルをより複雑に設定する必要がありますが今回はそこまで行わず,とりあえずの自分の考えとします.